古い小説です。1976年に刊行されたもの。
戦後から70年代の日本の情勢を舞台として描かれている。
古い本なので、もっと古臭さを感じて読みにくいかとも心配したのだが、全くそんなことはない。
母さん、ぼくのあの帽子どうしたでせうね?
...
西条八十の詩文。すごく優しい詩がこのストーリの重要な演出になっている。
この穏やかな詩文に対して、そこで繰り広げられるのは、異常な現実。
現代にも通じる親子の契約的な関係、少年少女の麻薬摂取と異常な性生活、不倫、そして母による子供殺し、その奥にある母子の壮絶な愛、などなど。
優しい詩と、異常な人間関係のギャップが妙なリアリティとなって引き込まれてしまった。
しかし、よくよく考えてみると、過激にも受け取れた本書で登場する若者の荒れ具合ではあるが、実は現代の方がもっとすごいので。
全く特別なことではなく、このようなことは既に日常茶判事なのだ。
昔の人は偉いと思う。現代の世の中がこれほどまでに人間関係が廃れてしまっていることを予言していたのだから。
★★★★☆
- 作者: 森村誠一
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/05/15
- メディア: 文庫
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さらに、個人的に面白かった点は、富山県八尾町(現在は富山県富山市八尾町)が本書における重要な舞台となっていること。
主人公の棟居刑事が八尾町に捜査に行った際の会話が完全な富山弁。
「あれえ、だらみたいにしゃべとって、ご飯や味噌汁、さめてしまうわ。かんにんしられえ。」
「やっぱし、ありますたちゃ」
「だら」、「〜られえ」、「〜ちゃ」。
富山県人の僕としては、すごく忠実な富山弁で表現されていることに関心した。