F君を殺して何になる

まだまだ実名で出版してよいかの判決が出ていないので、私も実名部分を伏せて「F君」とさせていただく。


本書は光市母子殺害事件の犯人である元少年の実名をタイトルに入れて出版したことで、話題となった本である。
大手書店は販売を見合わせていることから、私も興味はあったが手に入れることは難しいかと思っていた。


それが思いがけず、久しぶりに行った本屋で平積みにされているのを発見し、中身を立ち読みすることもなく購入した。
机の上に積まれている私の未読本の待ち行列にキューイングされることなく、すぐに読み始めた。
まぁ、量は少なく一日で十分に読み終えた。


私は著者である増田美智子さんという方をほとんど知らないけれど、
本書を読み終わった後の印象は"卑怯"と"稚拙"ということ。
自分が光市母子殺害事件に興味をもったから、被告、弁護団だけでなく、近隣の方々など様々な関係者に取材されたようだ。
それ自体はフリーライターとして全く問題ないことだと思う。
しかし、本書を読んだ限りでは自分本位で、相手の気持ちを無視し、マスコミということを盾にして行動している。
例えば、取材を断れた際の下記の言動。

あなたのそういう対応、そのまま書きますよ。

自分の実力ではなく、マスコミというものを後ろ盾にして脅迫している...
というように感じる。これは"卑怯"だ。


また、本書の中では新聞や他の書籍からの引用が非常に多い。
また、実名を掲載したことだけでなく、少年の中学生時代の写真、通った小学校・中学校・高校と名前と写真を載せているのは、読んでいるこちらが痛々しい。
暴露するのではなく、著者の言葉で表してほしかった。写真を使うなんて安易な手段。
そういった部分が"稚拙"と感じるところだった。

おかげで、今枝仁弁護士の『なぜ僕は「悪魔」と呼ばれた少年を助けようとしたのか』という本を読んでみようと思ったけど。


しかし、少年との会話や手紙の内容をそのまま掲載されていることは、好感が持てた部分。
これによって、これまで私が抱いてきた少年の印象は全く異なるものであったことがわかった。
これまでの報道ではヤンキーのような少年かと思っていたが、実はそうではなくオタクに近い少年であり、"不謹慎な手紙"は彼の中で作られた人格によって書かれたものだろう。

この少年のイメージの変化によって、私もこれから本事件をみるときの前提が変わることになる。


ただ、著者、増田美智子さんが書かれているような次のことは問題を提起するのではなく、自らの考えを示すことがジャーナリストなのでないだろうか。
自分の考えを示さずに終わっているために、本書はただの話題集めで中身が乏しく感じる原因だと思う。

リアルなF君を知ろうとしてほしい。
なぜ、彼はこれほどまでに凄惨な事件を起こしてしまったのか、同種の犯罪を防ぐためには何が必要か、考えてほしい。

★★☆☆☆

福田君を殺して何になる

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